千歌「ひと足早く、お花見しようよ」

千歌「そういえば、曜ちゃん」

曜「なに？ 千歌ちゃん」

千歌「今日、３月２７日って、何の日か知ってる？」

曜「んー……何か記念日なんてあった？」

千歌「あるんだよ、ちゃんとした記念日が」

曜「へー、そうなんだね……」

ｽﾏﾎ ｼｭｯ ｼｭｯ

曜「『３月２７日 何の日』で検索、っと」

千歌「ちょっと、なにカンニングしてるのさ！」

曜「あはは、ごめんごめん。ついクセで、ね」

千歌「もう答え、見ちゃったんでしょ？」

曜「うん、『さくらの日』で調べたら出たよ」

千歌「……正解」

曜「やったー！ 曜ちゃん10ポーイント！｣ｶﾞｯﾂﾎﾟ

千歌「カンニングしたからポイントゼロだよ！」

曜「えー、残念だなあ……」

曜「平成４年に、３×９(さくら)＝２７の語呂合わせと桜の開花時期が重なってることから、制定されたみたいだね」

千歌「検索結果そのまんまの情報、ありがとうね」

曜「あとちなみに今日は仏壇の日、交番の日、ツナの日でもあるらしいよ」

千歌「それは私も知らなかったよ、さすがはヤホーだね」

千歌「『さくらの日』にちなんで……ひと足早く、お花見しようよ」

曜「おー、それはナイスアイデアでありますなー」

千歌「ふふーん、でしょー？」

曜「でも、ちょっと待って……」

ｽﾏﾎ ｼｭｯ ｼｭｯ

曜「……静岡の桜の開花予想、まだ『ツボミ』のところばっかりだよ？」

千歌「……それは存じ上げているのだ」

千歌「……曜ちゃん、私たちのすぐ近くに、満開の桜が咲いているのを、忘れた？」

曜「すぐ近くに……満開の桜……？」

千歌「……『桜』内梨子ちゃんのことに決まってるじゃん｣ﾆﾔﾘ

曜「あー、そうだったー、近過ぎて私忘れていたよ！｣ｱｲﾀｰｯ

曜「ほー、それはおもしろそうですなー」ﾆﾔﾆﾔ

千歌「と、いうわけで……」

ｶﾞｻｶﾞｻ

千歌「はい、これスケッチブック」

曜「なんでスケッチブックなんか渡してくるの？」

千歌「だって梨子ちゃんに『今日はさくらの日だから、梨子ちゃんのことじっくり観察していーい？』なんて聞いても、『そんなの、嫌だよ……』って断られるのが目に見えてるからさ」

曜「まあ、軽く変態行為だもんね」

千歌「『ちょっと絵を描くのにハマっちゃったからさ、デッサンのモデルになってよ梨子ちゃん』って言ったら……すんなりOKしてもらえるんじゃないかな、って」

曜「賢い……賢いよ、千歌ちゃん！」

千歌「えっへへー、それほどでもないよー」ﾃﾚﾃﾚ

曜「おーっ！」

ﾌﾟﾙﾙﾙｯ

千歌「あ、もしもし梨子ちゃーん？ あのね……」

ーーーそして

ﾄﾀﾄﾀ ﾄﾀﾄﾀ

梨子「千歌ちゃん、用事って、なあに？」

ようちか「梨子ちゃん、いらっしゃ〜い｣ﾐｷﾞﾃｸｲｯ

梨子「……今の挨拶は？」

千歌「三枝師匠だよ！」

曜「今は文枝師匠だけどね」

梨子「えっ、そうなの？」

曜「それで、梨子ちゃんに、デッサンのモデルになってほしいんだ……｣ﾓｼﾞﾓｼﾞ

梨子「千歌ちゃんと曜ちゃんが、描画を好きになってくれるのは嬉しいな。でも、人物のデッサンは、初心者には少し難しいと思うよ」

曜「大丈夫！ ハードルは高い方が燃えるから！」

千歌「そーそー！ ハードルが高い方がくぐり抜けやすいしね！」

梨子「ハードルを潜っちゃダメだよ……」

千歌「ありがとー、梨子ちゃーん｣ｳﾙﾙﾝ

曜「なんて優しいんだろう、梨子ちゃん｣ｳﾙﾙﾝ

梨子「大袈裟だよ、２人とも……｣ﾃﾚﾃﾚ

千歌「じゃあ、とりあえず私のベッドに座ってくれる？」

梨子「はい、わかったよ」

曜「それで、手は太ももの上に添える感じで置いて……」

千歌「背筋はピンと、ね……」

梨子「……こんな感じの座り方で、いいかな？」

千歌「うん、大変お淑やかな座り方だね｣ﾆｺﾆｺ

曜「気品が溢れ出ているね｣ﾌﾌｯ

ようちか「それじゃあ、レッツデッサンスタート！」

梨子「頑張ってね、千歌ちゃん、曜ちゃん｣ﾆｯｺﾘ

ようちか(さあ、レッツお花見スタート！)ﾆﾔﾆﾔ

梨子「……」

千歌「……｣ｼﾞﾛｼﾞﾛ

曜「……｣ｼﾞﾛｼﾞﾛ

ｶｷｶｷ ｶｷｶｷ

千歌「……ほんと、良い足のラインをしているねぇ……」ﾎﾞｿﾎﾞｿ

曜「太すぎず、かと言って細すぎず……絶妙なバランスの太ももだよね……」ﾎﾞｿﾎﾞｿ

千歌「ふくらはぎの膨らみもね……ちょっと身が詰まってるししゃもみたいだよね……」ﾎﾞｿﾎﾞｿ

曜「本来、卵いっぱいある方が嬉しいんだけどね、ししゃもだと」ﾎﾞｿﾎﾞｿ

千歌「……このししゃもなら、私許せるよ｣ﾎﾞｿﾎﾞｿ

曜「私も｣ﾎﾞｿﾎﾞｿ

梨子(こそこそ、何をお喋りしてるのかな……？)

梨子「いいけど……どんなポーズを取ればいいの？」

千歌「……ベッドの上で、体育座り」

曜「！？｣ｶﾞﾀｯ

梨子「……私、今スカートなんだけど……｣ﾓｼﾞﾓｼﾞ

千歌「大丈夫、見えない、見えないから絶対！」

曜「体育座りのポーズでデッサンしてみたいの、お願い！」

梨子「そこまで、言うなら……｣ﾓｼﾞﾓｼﾞ

ようちか「うっし！｣ｶﾞｯﾂﾎﾟ

梨子「……これで、いい？｣

ようちか「あざーっす！｣ﾍﾟｺﾘｯ

ｶｷｶｷ ｶｷｶｷ

梨子「……」

千歌「……｣ｼﾞﾛｼﾞﾛ

曜「……｣ｼﾞﾛｼﾞﾛ

千歌「……鉄壁だあ……白いおみ足で見事、パンツが見えてない……｣ﾎﾞｿﾎﾞｿ

曜「……いや、千歌ちゃんよく見るんだ、心の目でよーく見るんだよ……｣ﾎﾞｿﾎﾞｿ

千歌「……うーん……あっ｣ｼﾞｰﾛｰｯ

曜「……ピンクでしょ？｣ﾆﾔﾆﾔ

千歌「……秘境に咲く満開の桜なのだ……｣ﾆﾔﾆﾔ

梨子(……やっぱり見えてるよね、この反応は……)ｶｵﾏｯｶ

梨子「いいけど、ところで……ちゃんと描けているの……？」

千歌「描けてる、今のところ順調だから！」

曜「髪の毛を上げる仕草をしてほしいんだ……」

梨子「髪を上げれば、良いの？」

千歌「……曜ちゃん、それはもしや……｣ｺﾞｸﾘ

梨子「これで、いい？」

曜「そう、そんな感じで止めておいてね」

ｶｷｶｷ ｶｷｶｷ

梨子「……」

千歌「……｣ｼﾞﾛｼﾞﾛ

曜「……｣ｼﾞﾛｼﾞﾛ

千歌「……うなじ！｣ﾎﾞｿﾎﾞｿ

曜「そう、うなじでございます！｣ﾎﾞｿﾎﾞｿ

千歌「普段梨子ちゃんって、髪の毛下ろしたまんまだもんねー……｣ﾎﾞｿﾎﾞｿ

曜「こういうときでないと、見れないでしょ？｣ﾎﾞｿﾎﾞｿ

千歌「肩から首にかけての……うなじという名の白い山脈……｣ﾎﾞｿﾎﾞｿ

曜「名峰でありますな……｣ﾎﾞｿﾎﾞｿ

梨子(……なんだか様子がおかしい……)

梨子「……本当に、デッサンしてるんだよね……？」

曜「してるよ！ 私たちを疑ってるの！？」

梨子「ちょっと、行動に疑問が……」

千歌「……ベッドの上で女の子座りを、お願いします……」

曜「！？｣ｶﾞﾀｯ

梨子「女の子、座り……？」

梨子「こ、こう……？」

千歌「そう、そう座って……手は横に置いて……」

曜「……すこし上目遣いだとなおグッドだね」

千歌「いいかも、それ！」

梨子(……本当にデッサンしてるのかな……？)

千歌「……｣ｼﾞﾛｼﾞﾛ

曜「……｣ｼﾞﾛｼﾞﾛ

ｶｷｶｷ ｶｷｶｷ

千歌「……この座り方は可愛さも、もちろんあるんだけど……｣ﾎﾞｿﾎﾞｿ

曜「上目遣いで見られると、制圧感が高まるでしょ？｣ﾎﾞｿﾎﾞｿ

千歌「イケないことをしちゃいたくなるよね……｣ﾎﾞｿﾎﾞｿ

曜「……梨子ちゃんなら、一線超えても……｣ﾎﾞｿﾎﾞｿ

ようちか「……｣ﾆﾔﾆﾔ

梨子「あの……２人とも、ちょっと……いい？」

千歌「な、な、なんで？｣ﾋﾞｸｯ

曜「わ、私たち下手くそだから……こんなの見せられないよ……｣ﾋﾞｸﾋﾞｸｯ

梨子「下手でも構わないから、ね？｣ﾆｯｺﾘ

ようちか「いやいやいやいや、これはとてもとても……」

梨子「……｣

梨子「あっ、あんなところにポンジュースが」

ようちか「え、ポンジュース！？｣ｶﾞﾀｯ

ｽｯ

千歌「あ、しまった！ スケッチブックを……！」

ﾍﾟﾗｯ

梨子「……『パンツ ピンク イメージ通り』……」

ﾍﾟﾗｯ

梨子「……『うなじ 白い山脈 登りたい』……」

ﾍﾟﾗｯ

梨子「……『女の子座り 女子力高い 制圧感 これはヤバい』……」

ﾊﾟﾀﾝｯ

梨子「……曜ちゃんのも、見せて」

曜「……はい」

ｽｯ

ﾍﾟﾗｯ

ﾍﾟﾗｯ

梨子「……ほとんど感想が同じじゃない……！」

曜「こ、言葉は選んでるよ！」

梨子「言葉が違っても内容は一緒だよ……！」

千歌「し、しかん……？」

曜「エッチな目で見る、とかそんな意味だよ｣ﾎﾞｿﾎﾞｿ

千歌「ま、まあ間違ってないけどさ……」

曜「いやいや、一応否定はしようよ？」

千歌「……！｣ﾋﾞｸｯ

梨子「曜ちゃんの……変態」

曜「……！｣ﾋﾞｸｯ

梨子「２人とも……最低だよ」

ようちか「……！｣ﾋﾞｸﾋﾞｸｯ

曜「なんだろう、この胸の高鳴りは……｣ﾄﾞｷﾄﾞｷ

千歌「もう１回、もう１回罵って？｣ﾄﾞｷﾄﾞｷ

梨子「なんでそんなに興奮するの……！」

終わり