2 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:00:26.07 ID:ZTNp15f0.net
マルたちの目の前で、堤防から足を滑らせて。
海が荒れていて、マルにはどうすることもできず、あっという間に波に呑まれていくルビィちゃんを呆然と眺めていた。
ついさっきまで、マルたち一年生3人の、いつもと変わらない帰り道だったのに…
結局、履いていた靴だけが数日後に発見されたけど、ルビィちゃんは見つからなかった。
一応のお葬式が終わり、みんなは悲しみながらも日常を取り戻していったけど、善子ちゃんだけは家に閉じ籠っちゃった。
みんなは単に、目の前での親友の死にショックを受けたんだって思ってるけど、マルだけは知ってるんだ。
善子ちゃんがルビィちゃんに恋してたことを。そしてあの日、ルビィちゃんに告白しようとしてたってことを。
かわいそうな善子ちゃん…
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3 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:00:52.01 ID:ZTNp15f0.net
薄暗い部屋に大量に積み上げられた本の山。
善子ちゃんは蒼白い顔でその中に埋もれていた。
花丸「善子ちゃん、そろそろ学校来ないとホントに留年しちゃうよ」
善子「…どうでもいいわ」
花丸「クラスのみんなも心配してるよ」
善子「あの子のいない学校になんの意味があんのよ…」
花丸「辛いのはマルたちも一緒だよ」
善子「あの時、ルビィから目を離しさえしなければ…飛び込んで助けていれば!」
花丸「そんなことしたら、善子ちゃんも死んじゃってた…」
善子「こんなに後悔するくらいなら、死んでもやるべきだったわ」
花丸「それでルビィちゃんが喜ぶと思う?」
4 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:01:27.74 ID:ZTNp15f0.net
花丸「そんなこと…」
花丸(出来るわけない…)
善子「…」
花丸「…」
善子「…花丸、あんた『死人返り』って知ってる?」
花丸「しびとがえり…」
善子「死者の魂を現世に呼び戻す…魂呼び、魂呼ばいとも言って日本各地に伝わる風習よ」
花丸「ちょっと待って、善子ちゃん一体何を…」
善子「私はあれから、ルビィをこの世に呼び戻すため古今の書物を読み漁ったわ…今までのオカルトごっこじゃなく本気でね」
善子「そして見つけたのよ、他ならぬ内浦で死人返りの儀式が行われていた記録を」
花丸「マルも昔話でなら聞いたことあるよ…でも、あれはただのお話ずら」
善子「私もそう思ってた…けどね、古文書にも当時の記録が残ってたの。死人返りは本当にあったのよ」
花丸「善子ちゃん、まさか本気で言ってるの?」
善子「そう、準備もすべて整えてある。手に入れにくい物もあったけど、マリーに頭を下げて用意してもらったわ」
花丸(善子ちゃんの目、真剣だ…)ゾクッ
花丸「もし、もしもだよ、それが本当だとして、そんなこと間違ってる!死んだ人を生き返らせるなんて…」
善子「間違ってるなんて分かってる!おかしいのも分かってる!…でも、ルビィが死んだのだって間違ってるでしょ!なんであの子がっ!」
花丸「ごめん善子ちゃん、言い過ぎたずら…でも今の善子ちゃん普通じゃないよ、もう少し落ち着こ?」
善子「いいのよ…でもね、私はやる、誰が止めてもね」
花丸「善子ちゃん…」
善子「さあ、もうじき雨になるわ。早く帰んなさい」
薄暗い部屋の中、無表情な善子ちゃんの眸だけが暗く光っていて、マルはもう何も言えず部屋を後にした。
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5 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:02:10.67 ID:DPQ/1fER.net
6 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:02:25.49 ID:ZTNp15f0.net
マルは堤防から、濁った水面を覗き込んでいた。
不意にぶくぶくと気泡が上がり、黒くドロドロしたモノが浮き上がってくる。
辺り一面に魚の腐ったような臭いが漂い、猛烈な吐き気に襲われた。
逃げなきゃ…そう思うのに体が動かない。
奇妙な黒い塊はうねうねとマルの足下に迫って、徐々に何かの形に…
これは……人?
ガバッ
花丸「はぁっ…はぁっ…」
花丸(夢かぁ…ひどい寝汗…)
花丸(昨日あんなもの読んだせいだ…)
善子ちゃんの言葉を信じたわけじゃないけど、昨日は何となく眠れないまま、内浦の伝説を集めた本に目を通していた。
死人返りの話とは、海で最愛の女を喪った男が、旅の法師から死者を蘇生させる方法を聞き、女を取り戻す話だ。
海から戻った女は、三日の後に男の元へ現れたという。
昔話だから一応めでたしめでたしで終わってるけど、本当にそうなの?
花丸(善子ちゃんの言った古文書には、何が書かれているんだろう…)
いけない。
死んだ人が甦るなんて、絶対にあり得ないこと。
今の善子ちゃんは不安定になってるんだ。
マルまで影響されちゃダメ。
善子ちゃんにはマルが傍についてあげて、早く元気になってもらわなくちゃ。
花丸「よし!」
飛び起きてカーテンを開けた。
昨夜の雨は止んだけど、空は相変わらずどんよりと曇っている。
8 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:03:03.21 ID:ZTNp15f0.net
事故の起きた堤防を通るのは良い気持ちはしなかったけど、気にしたら負けだよね。
花丸(嫌な夢だったな…)ハッハッ
花丸(あの黒いモノ…まさか…)ハッハッ
花丸(ちょうどあの辺り…)ドキドキ
花丸(ふふっ、いるわけないずら)ハッハッ
ビクビクしていた自分が可笑しくなって、つい笑い出しそうになったとき、ハッとして足が止まった。
腰の高さほどのコンクリートの堤防。
そこから海沿いの道路を横切って草むらに消えていく、濡れたような跡が筋になっている。
花丸(あの筋、海の中まで続いてる…)
花丸(違う!何かが海から上がって…堤防を乗り越えて這いずった跡だ)
花丸(何だか、ヌメヌメしてる…それに生臭い…)
花丸(…っ!?)ゾクッ
背中に冷水を浴びせかけられた気がした。
ヘドロのような痕跡の中に、赤味がかった一筋の髪の毛を見つけてしまったから。
花丸(ウソだ、そんなわけない…これは野良犬が魚かなにか引き摺った跡、そうに決まってる)
足は自然と後ずさりして、いま来た道を駆け戻った。
あの嫌な臭いが鼻の奥にこびりついて、後ろを振り返ることはどうしてもできなかった。
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9 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:04:02.12 ID:ZTNp15f0.net
誰かが掃除したのかもしれない。
少しホッとしながら教室に入る。
「おはよー」
「おはよっ、公園のハトの話聞いた?」
そんなクラスメイトの会話が、ふと耳に入った。
花丸(公園のハトかぁ…ルビィちゃんが可愛がってたっけ)
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ルビィ『おーいハトさんたち!おいでおいで〜、ごはんだよ〜』パラパラッ
善子『あんた、ハトの餌やり飽きないわねぇ』
ルビィ『ほら、このハトさんたちキャラメルコーン大好きだよ。やっぱり…』
善子『東ハトだけに、とか言うつもりでしょ?』
ルビィ『ぅゅ…善子ちゃん先に言わないでよぉ』
善子『ふふん、リトルデーモンの考えなどお見通しなんだからね…ってヨハネよ!』
ルビィ『えへへ、ヨハネちゃん///』
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「それがさぁ、野犬に襲われたかなんかでさ、全部…食べられちゃってたんだって」
「え〜やだグロっ、ってかホントに?」
「だって何人も見たって…」
それ以上、彼女たちの話は頭に入ってこなかった。
花丸(昨日読んだ本…生き返った女は三日の間、何を食べていた?)
花丸(獣の…肉…)
花丸(そんな…あるわけない…あり得ない…)
10 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:04:17.29 ID:ZTNp15f0.net
花丸「ちょ、ちょっと貧血気味で…もう大丈夫ずら」ニコッ
「大丈夫そうには見えないなぁ…保健室で休んできなよ」
花丸「大丈夫っ…だから」
自分が小刻みに震えてることを認めたくなくて、ついキツい口調で応えてしまった。
クラスメイトはそれ以上何も言わず席に帰っていった。
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11 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:05:04.91 ID:ZTNp15f0.net
善子ちゃんの部屋に入る前あれこれ考えたけど、結局、単刀直入に聞いてみることにした。
学校の連絡事項を伝えて何気ない会話を交わしたあと、あくまで何でもない風を装って…
善子「…」
花丸「したんだね」
善子「…」
花丸「何も起きないよ…生き返るわけない…あるわけないずら」
善子「…そうかしらね」
花丸「そうだよ!だって…」
プルルルルッ
マルの言葉を遮るように鳴り出した善子ちゃんのスマホは、ワンコールでプツリと切れた。
面倒くさそうに着信履歴を眺めた善子ちゃんが、急に目を輝かせて食い入るように画面を見つめている。
花丸「どうしたの?」
善子「…てくれたんだ」ボソッ
花丸「え?」
善子「掛けてきてくれた」スッ
花丸「…!?」
手が震えて、渡されたスマホを取り落としそうになる。
画面に表示された発信者は…
[着信 17:20 黒澤ルビィ]
花丸「…うそだ」
花丸「ねぇ!善子ちゃん、そうやってマルをからかってるんでしょ!?」
善子「番号、見てみなさいよ」
花丸「…!」
かすかに覚えのあるルビィちゃんの電話番号…なんで?なんで?どうして?
善子「それに、着信時間…」
花丸「5時…20分」
事故の時間…
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12 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:05:43.38 ID:ZTNp15f0.net
暗闇の中、何かがひたひたと這い廻っている。
酷い腐臭…
ピチャリ…ピチャリ…水の滴る音とともに、だんだんマルの方へ近寄ってくる。
逃げなきゃ…早く逃げなきゃ…
ピタリと動きが止まった。
息を殺して祈る。気づかないで…気づかないでっ…
ガバッ
花丸「はっ…はあっ…」
花丸「ダメだ…このままじゃ」
花丸「やっぱり、ちゃんと確かめよう」
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13 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:06:27.12 ID:ZTNp15f0.net
マルも全然会えていないけど、今日は部室に顔を出しているかな?
メンバーが揃わないのでAqoursの活動は休止しているけど、部室にはよく皆が集まっていた。
マルはあまり行く気にはなれなかったけど、今日は早くダイヤさんに会って確かめなきゃいけない。
だけど、部室に入るとダイヤさんはおらず、千歌ちゃんが泣いていた。
曜「元気だして、千歌ちゃん」ギュッ
千歌「うん、ありがと」グスッ
花丸「千歌ちゃん、どうしたずら?」
千歌「今朝、しいたけが…いなくなっちゃったの」
花丸「…どういうこと?」
呼吸が苦しくなった。
千歌「朝起きたら、鎖が千切れてて…毛が…散らばってて」ポロポロ
曜「だ、大丈夫だよ。しいたけ力持ちだもん、きっと何かびっくりして鎖を切って逃げちゃったんだよ。すぐ戻ってくるって」アセアセ
花丸「そ、そうだよ…戻って…くる」
千歌「だって…あんなに…血も…」ウワーン
花丸「ま、マルはちょっと用事があるから…帰るね」ダッ
もうその場にはいられなかった。
花丸(やっぱり行かなくちゃ…ダイヤさんのところへ)
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15 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:07:41.29 ID:ZTNp15f0.net
ダイヤさんは寝間着に上を羽織っただけの姿でマルを迎えてくれた。
ダイヤ「お久しぶりです。葬儀の席では取り乱してしまい、すみませんでした」
花丸「ダイヤさんが謝ることじゃないずら…体の具合はどう?」
ダイヤ「早く学校へ戻れると良いのですが…その方が…ルビィも…喜ぶと…あ、ごめんなさい…」ポロポロ
花丸「今はゆっくり休んだ方がいいよ…」
ダイヤ「…ええ、ありがとう。これでも大分気持ちは落ち着いてきたのですけどね」
ダイヤ「でも、まだあの子の部屋は片付けられなくて…ふらっと帰ってきそうな気がするの」
花丸(電話は…どうなったんだろう?)
ダイヤ「本当に、どんな形でも帰ってきて欲しいと思うものなのね…内浦には死人返りなんて伝説もあるけど」
花丸「え、ダイヤさんも知ってるの?」
ダイヤ「ええ、あれは元々黒澤家に縁のある者の話ですから」
花丸「そうだったの?」
ダイヤ「世間には、恋人と添い遂げたと伝わっているみたいだけど、我が家に伝わる話は違うの」
花丸「それは…」
ダイヤ「男に再び逢ったとき、女はもう人間ではなかった。彼女は男をとり殺し、再び元の骸に戻った…そう伝わっています」
花丸「…っ!」
16 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:08:13.62 ID:ZTNp15f0.net
早く善子ちゃんに知らせなきゃ…
でも、これだけは聞いておかなきゃいけない。
花丸「ダイヤさん…あの、こんな時にこんなこと聞くのは失礼なんだけど」
ダイヤ「なんです?」
花丸「ルビィちゃんの電話…どうなったか知ってる?」
ダイヤ「分からないの、一緒に流されたんだと思うけど…」
花丸「やっぱり…」
ダイヤ「あ、でも…良く考えたらまだ部室にあるかもしれないわね、あの子よく置き忘れてたから」
花丸「部室に…」
ダイヤ「それが何か?」
花丸「別に…ただ、気になって」
ダイヤ「花丸さん、あなた顔色が悪いけれど大丈夫?」
花丸「…」
何と言って黒澤邸を出てきたのか覚えていない。
明日は部室を探さなきゃ…もう時間がない。
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18 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:09:03.27 ID:ZTNp15f0.net
黒い人影はマルの足元に蹲っている。
囁くような声で何かを呟きながら…
怖い…でも確かめなくちゃ。
マルは震えながら、俯いた顔を覗き込んだ。
途端にそれはマルの腕に爪を立てて掴み、顔を寄せてきた。
マルの頬に湿った手がひたりと添えられて…その口から漏れ出た言葉は…
ガバッ
花丸「うわあああぁぁぁ!…あっ…」ハァッハァッ
花丸(もう三日目…)
花丸(ルビィちゃんは本当に来るの?)
花丸(善子ちゃんに逢うために?)
花丸「そんなこと…させない」ギリッ
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20 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:09:56.05 ID:ZTNp15f0.net
部室でみんなと顔を合わす気にはなれなかったけど、どうしても電話の行方を確かめたい。
マルは重い気持ちのまま渡り廊下を進んでいた。
花丸(誰も来てないといいけど…あれ?)
ときおり吹き込んでくる雨で、視界は煙っている。
さすがにこんな悪天のなか出歩いている生徒はいないな、と目を部室に向けたとき、視界の端にチラッと捉えたのは…
ドアの隙間へ滑るように入っていった小柄な影!
花丸(一瞬だったけど間違いない!赤い髪…ツインテール…)
鼓動が早鐘のように打ち始めた。胸が痛い。
身体が震えてうまく動かない。
怖い、怖い、逃げたい、逢いたくない、でも…確かめなきゃ…
考えがまとまらないまま足は進んで、部室の前まで来てしまった。
震える手でそろりと戸を開ける。
そこには…
果南「あ、おはようマル」
鞠莉「花丸、あなた真っ青な顔してるわよ」
花丸「い、今ここに、ル…誰か入って…」
梨子「ここにいる人以外には誰も来なかったけれど?」
そんな…マルは…確かに、あんなにはっきり…
マルはおかしくなっちゃったの?
怪訝そうに見つめるみんなの顔が、やけに冷たく見えてくる。
絶対、どこかに隠れてるはず…
そう、この中に!
曜「ちょ、ちょっと花丸ちゃん?」
鞠莉「どうしたの、ロッカー片っ端から開いて」
花丸「おかしい…どこ?どこにいるの!?」バターン
果南「マル、落ち着いてっ!」ガシッ
花丸「離して!離してっ!」
曜「大丈夫、大丈夫だから!いっぺん座ろ?ね?」
花丸「はぁっ…はぁっ…」ガックリ
千歌「ほら、大きく深呼吸して?」
果南「落ち着いた?何があったか話して…あれ?」
21 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:10:35.99 ID:ZTNp15f0.net
鞠莉「あれ、何?…この歌…」
…なのに…なたが好き…きれない…忘れられない ♪〜
控室から聞こえてきた微かな歌声に、みんなの動きが止まった。
千歌「これ、μ’sの…printempsの『Love Marginal』だ」
梨子「ルビィちゃんが大好きだった…」
曜「っていうか…これルビィちゃんの声じゃ…」
鞠莉「ちょっと!」ガタッ
果南「鞠莉、行くよ」ガラリッ
控室に飛び込んでいく三年生。
果南「ん?これは…」
鞠莉「携帯プレーヤーじゃない」
曜「このプレーヤー、ルビィちゃんが使ってたのだよ」
梨子「ルビィちゃん、歌の練習にってオフボーカルに自分の歌を乗っけて聴いてました」
千歌「なぁんだ、そっか…でも、なんでこんなとこに?」
梨子「それに…さっきの声、ルビィちゃんの声なのにとっても暗くて冷たくて…地面の底から響いてくるみたいな…」
曜「やめてよ梨子ちゃん」
鞠莉「あ、花丸!どこ行くのよっ?」
気が狂いそうだった。
ルビィちゃんはいる。
そして善子ちゃんに逢いに来る。
それだけはさせない、絶対に!
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22 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:11:18.50 ID:ZTNp15f0.net
インターホンを鳴らして返事を待つ間も、落ち着いていられない。
花丸(あの子が…近くにいる!早く返事してっ)
だが何の返事もない。
どうしよう…途方にくれたそのとき、ポンと肩を叩かれた。
花丸「ひっ?」ビクッ
善子「どうしたのよ、こんな雨の中」
花丸「よ、善子ちゃん…どこへ」
善子「私だって買い物くらい出るわ」
善子ちゃんは言葉少なに言うと、先にたって歩き出した。
マルも黙って付いていく。
エレベーターで上がる間も、善子ちゃんは黙りこくっていた。
花丸(善子ちゃんが何を考えてるのか分からない…)
花丸(マルが本当に怖いのは、ルビィちゃん?それとも…善子ちゃん?)
あの陰気な部屋に通されても、善子ちゃんは押し黙っている。
何かを待っているように…
花丸「善子ちゃん、ルビィちゃんは本当に来るよ」
善子「そうね…それを待ってるの」
花丸「ルビィちゃんに…殺されるとしても?」
善子「あんたも知ったのね、もう一つの伝説を」
花丸「ねぇ、逃げよ?マルが付いてってあげる」
善子「私はルビィに逢えるなら、どんな形だっていいの」
花丸「そんなことさせない!マルが止めてみせる!」
その瞬間、バチっと音がして全ての明かりが消えた。
23 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:12:02.41 ID:ZTNp15f0.net
暗闇の中、マルの脇をすり抜けて部屋を出ていく気配がする。
善子ちゃんの足音は次第に遠ざかって、やがて消えた。
無音の闇の中に取り残されて、マルは身動きもできず立ち竦んでいる。
花丸(善子ちゃんと一緒に行けば良かった…)
花丸(早く…早く明かりを点けてっ)
ズルッ…ズルッ…
花丸(?…なに、あの音)
ズルッ…ピチャッ…ズルッ…
花丸(廊下から…近づいてくる)
…チャン…
花丸(何か…呟いてる?)
ズルッ…ペタッ
花丸(ドアの前で止まった…)
花丸「…」ハァッハァッ
シーン
花丸(早く…どこか行って…)ハァッハァッ
「…しこ…ゃん…よしこ…ちゃん…」
花丸(この声っ!?)ビクウッ
花丸(生きてる頃より少し低くて冷たい…)
花丸(懐かしい、だけど…二度と聞きたくなかった声!)
「よし…こ…ちゃん」
花丸「ルビィちゃん!」
「…はな…まる…ちゃ」
花丸「なんでっ、なんで戻って来たの!」
24 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:12:48.51 ID:ZTNp15f0.net
花丸「善子ちゃんは渡さない!」
「…」
花丸「善子ちゃんはマルの特別な人だから、誰にも渡さない!」
「…」
花丸「ルビィちゃんが悪いんだよ!マルから善子ちゃんを取っちゃうから!」
「だから…押したの?」
花丸「そうだよ!マルが悪いんじゃない!」
「…」
花丸「またマルの邪魔するんなら、もう一度っ!!」
「…」
花丸「はぁっ…はぁっ…」
「そうだったの…ですね」
突然、明かりがパッとついた。
ドアがスルリと開いて入ってきたのは…
花丸「ダイヤさん…なんで…」
ダイヤ「善子さんもお入りなさい」
花丸「善子ちゃんも…」
善子「そう、私が仕組んだのよ…真実を知るためにね」
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25 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:13:18.16 ID:DPQ/1fER.net
26 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:13:33.24 ID:ZTNp15f0.net
花丸は私が余所見をしていると思っていたようだが、たまたま見ていた向かいの家の窓ガラスに二人が映り込んでいたのだ。
だけど、あの時の私は信じられない光景を目にして、何も出来ないままルビィを見殺しにしてしまった。
あれは本当のこと?
あの日から何度も自問自答したけど、答えはいつも同じ。
花丸はルビィを殺した。
なんで?
善子「だから、あんたに本当の気持ちを話して欲しかった」
善子「でも、問い詰めてもムダだと思ったから、ダイヤたちみんなに協力してもらったのよ」
花丸「じゃあ、今までの…ことは…」
ダイヤ「いつもの花丸さんなら、Aqoursの皆が口裏を合わせればできる仕掛けだと気づいたはずです」
ダイヤ「ルビィの声色も、良く聞けば似ていても私の声だと分かったでしょう」
善子「でも、あんたは自分の心の中のルビィに怯えてた」
ダイヤ「疑えば目に鬼を生ず、です」
花丸「…くっ」
27 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:14:06.95 ID:ZTNp15f0.net
花丸「…何?」
善子「ルビィはね、あんたのことが好きだった…花丸に恋してたわ」
花丸「うそだ…」
善子「本当よ、だって私の好きな人のことだもん。ずっと見ていれば分かる」
花丸「そんならなんで…告白なんか…」
善子「私はそれでも良かった…自分の気持ちに区切りをつけて、後はまた変わらず三人で楽しくやっていければって…」
花丸「そっか…マルがそれを…」
善子「私もダイヤも、あんたをどうにかしたい訳じゃないわ。この先どうするかは、あんたが選びなさい」
ダイヤ「…」コクリ
花丸「…マルはね…何にもいらない…善子ちゃん以外何もいらないの」ニコッ
善子「花丸…」
花丸「だからね、邪魔する人はいらないんだ…」ユラッ
善子「ダイヤ危ないっ!!」ドンッ
ダイヤ「きゃっ!?」
花丸「ちっ!?…善子ちゃん、ごめんね!」ダッ
善子「あっ!?」
ダイヤ「いけないっ!」
私とダイヤの伸ばした手は空を切り、花丸はベランダの手すりを乗り越えて、闇の中へ落ちていった…
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28 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:14:46.28 ID:ZTNp15f0.net
善子「ルビィの月命日だもん、お墓参りくらいさせてよ」
ダイヤ「腕の傷の具合はどうです?」
善子「もう大丈夫よ…ちょっと跡は残っちゃったけどね」
ダイヤ「あの時はありがとうございました」
善子「まぁ、ダイヤを巻き込んで危ない目に遇わせたのは私だし」
ダイヤ「いえ、ルビィのためにもお礼を言いたいくらいですわ」
善子「そう言ってくれるなら嬉しいけど…」
ダイヤ「あれから変わったことはないですか?」
善子「ま、今のところはね」
ダイヤ「しかし、どこへ行ったのでしょうね」
マンションの駐車場に血痕を残したまま、花丸は姿を消した。
善子「あの高さから落ちて、無事のわけないんだけど」
ダイヤ「もう彼女…人ではなかったのかも知れませんね」
善子「人でなきゃ何なのよ」
ダイヤ「嫉妬に狂った女が生きながら鬼となる…」
善子「鬼か、古典的ね。でも…」
最後に見た花丸の顔、笑っているのに泣いているような、寒気のする程の凄まじい笑顔。あれは確かにー
善子「帰りましょ」
ダイヤ「ええ」
背筋に薄ら寒いものを感じながら、私たちは寺の参道を下っていった。
‐ 終わり ‐
29 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:15:42.38 ID:ZTNp15f0.net
黒澤 ルビィ : 黒澤 ルビィ(新人)
国木田 花丸 : 国木田 花丸(新人)
津島 善子 : YOHANE(新人)
黒澤 ダイヤ : 黒澤 ダイヤ(特別出演)
高海 千歌(友情出演) 渡辺 曜(友情出演)
桜内 梨子(友情出演) 松浦 果南(友情出演)
小原 鞠莉(友情出演)
浦の星女学院高校1年A組のみなさん
脚本/演出/監督 小原 鞠莉
音 楽 桜内 梨子
挿 入 歌
「Love marginal (HANAYO Mix)」 黒澤 ルビィ
作詞:園田 海未
作曲:西木野 真姫
エンディング・テーマ
「Waku-Waku-Week!」 黒澤 ルビィ 国木田 花丸 YOHANE
作詞:高海 千歌
作曲:桜内 梨子
撮影協力 「沼津市登録文化財 黒澤家」
協 賛 ホテルオハラc
c2017 私立浦の星女学院高校 スクールアイドル部 Aqours
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30 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:16:20.38 ID:ZTNp15f0.net
ダイヤ「やっかましいですわ!」
曜「ちょっと鞠莉ちゃん、Aqoursのプロモーション映画って聞いたからみんな協力したけどさ、やっぱりこれ不味くない?」
千歌「そーだよ、AqoursのプロモーションなのにAqours潰しちゃってるじゃん!誰がこれ観て応援してくれんのさ」
鞠莉「昔から、新人アイドルのスクリーンデビューといえばB級ホラーと相場が決まってるのデース!」
千歌「自分でB級って言っちゃってるし」
鞠莉「でもなかなかhorribleな映画になったと思わない?」
果南「私は、この脚本を平然と出してきた鞠莉が一番怖いよ」
千歌「エンディングも全然曲と中身が合ってないじゃん」
鞠莉「本編と全然関係ないタイアップ曲もアイドル映画の伝統なのデース」
曜「しかもエンディングのバックがNG集って…発想が昭和だよ」
梨子「ラストも意味わかんないですよね」
鞠莉「ムダに続編を期待させる結末も…」
善子「はいはい、お約束なんでしょ?」
鞠莉「イェ〜ス!次回作は『アンデッド・ルビィvsブギーマン花丸』よ!」
善子「いや、ないから」
果南「花丸たちはこれでいいわけ?」
花丸「マルは案外楽しかったずら♪ でも…」
31 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:16:46.47 ID:ZTNp15f0.net
ルビィ「ぅゅ…鞠莉ちゃん酷いよ…ルビィ主役だって聞いたから喜んだのに、ほとんど遺影しか出てないじゃん!」
鞠莉「ん〜、そうだったかしら?でもほら、存在感はあったじゃない。Love marginal の歌声とか、迫真の演技だったわよ」
千歌「そうそう、あれ凄かったよね」
曜「鳥肌立ったね」
ルビィ「え、あれルビィ歌ってないよ?」キョトン
鞠莉「じゃあダイヤ?」
ダイヤ「私のわけないでしょう」
鞠莉「ちょっと梨子、どういうこと?」
梨子「え、あれ鞠莉さんが録ってくれたんじゃなかったんですか?」
鞠莉「私はノータッチよ」
梨子「でも…私が作成しようとしたときにはもう声が入ってて、凄い完成度だからてっきり鞠莉さんが作ったって…」
一同「じゃ、あの声は一体…」ゾゾーッ
こうしてプロモーション映画はお蔵入りになりました。
「鬼を語れば怪至る」ずら♪
32 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:17:27.42 ID:ZTNp15f0.net
代行してくれた人、読んでくれた人サンキュー
33 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:19:12.86 ID:DPQ/1fER.net
ワクワクウィーク雰囲気に合ってなさすぎて草
36 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:26:19.27 ID:GkCXUUi1.net
38 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:32:26.80 ID:CjclZ+oD.net
43 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:46:23.03 ID:E/CP0xA4.net
乙
45 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 21:53:35.16 ID:SXzfujvC.net
乙
50 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 22:35:03.57 ID:0FiRsfk/.net
たまらねぇ〜
51 :名無しで叶える物語:2017/08/26(土) 22:46:14.78 ID:dk3mynG0.net
途中から見るの止めようかと思ったけどフィクションで良かった
元スレ:善子「死人返り」 (2ch.sc)